恋文
「奈美はいっつも笑ってた。何があっても笑ってた。俺は、奈美のそんな強さに惹かれたんだろうなぁ。」
ポツリポツリと小雨のように、小さくもれる悠哉さんの気持ち。
アタシはそんな小雨に、傘もささずに突っ立っているだけ。
この会話から逃れる為の傘が見つからない。
だから、アタシはずぶ濡れだ。
そんなアタシの気持ちに、悠哉さんが気付く筈もなく、話は続けられる。
「奈美とハルちゃんは、どこか似てるんだ。顔じゃなくて雰囲気がそっくり。本当にそっくりなんだ。」
ゆっくりと悠哉さんの顔が上げられる。
虚ろな瞳が、アタシを見ているフリをする。
悠哉さん。
また、アタシと奈美さんを重ねてるんだね。
アタシを見て、時々懐かしそうに目を細めて笑う悠哉さんが嫌だった。
それはアタシに似ているという、奈美さんを見てるから。
そんなこと、今初めて知った筈なのに、アタシはなんとなく気付いていたんだろうな。
自分でも気付かないうちに、悠哉さんがアタシと奈美さんを重ねて見ることを拒絶してた。
「ハルちゃん、俺のこと好き?」
「うん。好きだよ。」
戸惑うこともなく、率直に答える。
悠哉さんは嬉しそうに笑う。
ごめんね、悠哉さん。今の好きは嘘だよ。
アタシ、今の悠哉さんは嫌い。
奈美さんの話をする悠哉さんは嫌いだよ。
だけど、そんなすがるような目で見られたら〝No〟とは答えられないよ。
「俺もハルちゃんが好きだよ。」
優しく微笑む悠哉さんは、まだアタシを見ようとしない。
虚ろに濡れた瞳が、小さく揺れる。
「…―ごめんね。」
アタシには、悠哉さんの気持ちは分からない。
なんで謝るのか、なんで泣きそうなのか。
それは何に対しての謝罪?
アタシの気持ちに応えられないから?
アタシが嫌いだから?
奈美さんが大切だから?
アタシには、悠哉さんの気持ちは分からないけど、悠哉さんにアタシの気持ちは分からない。
「ハルちゃん、俺ね、1つ嘘ついてた。」
寂しそうに喋る悠哉さん。
アタシと悠哉さんとの間にある、1人分の席。
センセが座っていた席。
きっと、この席には、アタシと悠哉さんの決定的な違いが隠されているのだろう。
アタシが知らなくて、悠哉さんが知っていること。
それは、アタシが嫌いで、悠哉さんが好きな、奈美さん。
悠哉さん、そんなに悲しそうな顔しないでよ。
アタシは大丈夫だよ。
悠哉さんが何を言いたいのかは、なんとなく分かる。
悠哉さんが好きだから、分かるよ。
嘘ついてごめんね、悠哉さん。
ねぇ、悠哉さん
「俺、奈美と付き合ってるんだ。」
アタシは悠哉さんが大好きだったよ。
「…うん。」
アタシの口から出たのは、たったそれだけ。
たった二言。
大好きな大好きな悠哉さんが付き合ってるなんて知っても、たった二言。
いや、大好きだからこその二言。
これじゃあ、悠哉さんのぶきっちょなラブレターよりも短いね。
「悠哉さん、ごめんね。さっきの好きは嘘だよ。」
悠哉さんは悲しそうに、さらに顔を歪める。
違うよ。
アタシが言いたいことは違うよ。
悠哉さんに届くかは分からないけど、アタシからの最後のメッセージ。
「好きじゃなくて、大好きだよ。」