ガーデンテラス703号


ずっとダイニングの椅子に座ったままでいるホタルを気にしつつ、部屋のドアを開ける。


「あゆか」

部屋に入ろうとしたとき、ホタルが私を呼び止めた。

名前を呼ばれて、ドキリとする。

振り返ると、ホタルが唇の端をきゅっとつりあげた。


「相手のことは気にせずに、自分の気持ち優先させれば?」

「え?」

何のことを言っているのかわからず首をかしげると、ホタルが私が手に持っているスマホを指差してきた。


「男からのメールの返事」

揶揄うような声で言われて、さっきの遥斗からのLINEのことだと気づく。


「い、言われなくてもわかってる!」

カッとなって大声を出すと、ホタルを睨みながらバタンと部屋のドアを閉めた。


ハニージンジャーティーで忘れたのかと思ったら……

どうして最後にそういうことを蒸し返してくるのよ。

感じ悪い!


でも……

自分の気持ちを優先させろというホタルの言葉はあながち間違ってもないかなと思った。


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