ガーデンテラス703号
ただつけているだけのテレビに顔を向けたまま、ホタルのことを意識していると、ようやくコーヒーを飲み終えたらしい彼が立ち上がった。
使った食器をキッチンで手早く洗って、自分の部屋へと戻って行く。
そろそろ、出かけるのかな。
ホタルが部屋と洗面所を何度か行き来しているような足音がしばらく続き、それからリビングのドアが開く。
「じゃぁ、俺も行くから」
声をかけられて振り返ると、黒のスーツを着込んだホタルがリビングを覗き込んでいた。
元々背が高いホタルだけど、黒のスーツに身を包んだ彼はいつも以上に引き締まって、スタイルが良く見えた。
初めて見るホタルのスーツ姿に、思っていた以上にときめいてしまう。
思わず見惚れてぽかんとしていたら、ホタルが怪訝な顔で私を睨むように見てきた。
「聞こえてる?」
「あ、うん。もちろん」
「俺もシホも帰り遅いと思うけど、よろしく」
「こちらこそ、基さんによろしく」
一度会ったきりのお兄さんの名前を口にしたら、ホタルが少し渋い顔をして私に背を向けた。