ガーデンテラス703号


「そう、なんですね」

動揺を見せないように笑うと、森岡さんがワイングラスを持ち上げてそれをゆっくりと回した。


「うん。ここに女友達とか連れてきたら、まずだいたい店長に釘付けになってるよ」

「そう、ですか」

「あゆかちゃんも?」

「いえ、私は違います」

「それならよかった」

森岡さんがにこりと笑う。


「飲まない?」

「飲みます」

ホタルの気配が漂いすぎるこの空間で、なるべく彼を意識から遠ざけるために、グラスの中のワインを一気に飲んだ。

そんな飲み方はあまりしたことがないから、グラスをテーブルに置こうとしたときにさすがに頭がクラクラとした。


「大丈夫?」

目眩で動きを止めた私を、森岡さんが心配そうに見つめてくる。


「平気です」

かろうじて笑顔を見せることはできたけど、実際のところは頭がクラクラしていて、そのあと出てきた料理の味があまりよくわからなかった。

< 262 / 393 >

この作品をシェア

pagetop