ガーデンテラス703号
私、この一瞬で何か余計なことをしただろうか。
恐る恐る横目でホタルを見ると、彼がすっと前に移動した。
何でもないその動きにびびって一歩後ずさると、振り返った彼が眉根を寄せて私を睨む。
それから、長い腕を勢いよくずいっと私に向かって突き出してきた。
その勢いがあまりにもいいから、そのまま彼が手にしたものでお腹を突き刺されるんじゃないかと思って縮み上がる。
「お前も好きにとって食え。モタモタしてたら全部シホに食われる」
けれどホタルが突き出してきたものは鋭利な刃物でもなんでもなくて、白い取り皿と箸だった。
「フォークがいるなら、自分で適当にとって」
ホタルは呆然とする私に皿を押し付けると、それ以上 話しかけることなく離れていく。
「あ、ありがとう」
離れていく背中に慌ててそう声をかけたけど、聞こえなかったのかホタルは私を振り返らなかった。