memory
「それにしても、沢山買ったんだね。」
「今日はセールだったから。いつもセールの時にまとめ買いするのよ。どうせ知ってるんでしょ?私の家のこと。」
「…うん。」
噂は聞いていた。彼女は6年前に通り魔事件にあい、両親を亡くしている。
今は、祖父と二人暮しらしい。
俺は何と言ったら良いのか分からずに無言になってしまった。
気まずい沈黙が流れる。
何とか話題を変えようと思わず口走ってしまった。
「月が綺麗だね。」
「…それはどういう意味で言ってるの?」
「どっちも、かな。」
「私と関わっても面白いことなんてないよ。」
彼女は俯いていた。
「どうして空井さんは、そうやって人と壁を作ろうとするの?何故自ら孤独に進むの?」
「分かってるならなんで関わろうとするの。」
彼女の声には少し怒りが混じっていた。
「気になるから。」
「えっ?」
「空井さんのことが気になるから。」
彼女の顔が赤くなったように見えるのは気のせいだろうか。
「…よくそんなことがさらっと言えるわね。」
彼女はそう言うと歩幅を広げ、どんどん先に進んでしまう。
俺はあわてて彼女に付いていこうと歩いた。