memory

しばらく無言でずんずん歩くと、彼女は立ち止まった。

「私の家ここだから。」

古い日本家屋だった。表札には「須藤」とあった。母方の実家なのだろうか。

「荷物運んでくれてありがとう。」

そう言って彼女は俺の手から買い物袋を取る。

「俺の方こそ強引に家まで送ってごめんな。」

「いえ、ありがとう。」

そう言った彼女は少し微笑んでいるようにも見えた。そして家の中に入ってしまった。


夏目漱石は「I LOVE YOU」を「月が綺麗ですね」と訳したそうだ。

ミスったな。告白まがいなことをするにはあまりにもタイミングが悪すぎだ。

でもほんの少し彼女との距離が変わっているような気がするのは気のせいだろうか。
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