聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
その疑問に答えるように、聖乙女が長い桜色の睫毛を伏せて言った。

「助ける、などという大それたことは考えていません。ただ、少しでもあなたのお役に立ちたいのです…それでは、いけませんか」

「……………」

ライトは驚きに目を瞠った。聖乙女の腹部からも血が滲みだしていることに気付いたからだ。

彼女は自分の怪我そっちのけでライトを治療しているのだ。ライトはますます理解不能な気持ちになり、思わずこう尋ねていた。

「なぜ、そう思う」

それは聖乙女を驚かせる質問だったらしい。桜色に縁どられた白い顔が一瞬驚きの色に染まり、それからどこか困ったような表情を浮かべた。

「なぜ、でしょう…それは私にも、よくわからな…くて……」

「………!」

突然、聖乙女の体が崩れ、大地にひきずられるように倒れこんだ。

「おい」

返事はない。その赤くつややかな唇からは静かな寝息がもれていた。

ライトはおそるおそる身を起こした。

先ほどと違って、腹はもう痛まなかった。見れば傷口は完全にふさがり、もとどおりしなやかな筋肉が息づいている。

ライトは心の中で唸った。聖乙女の癒しの力とはなんという力だろう。

ライトは銀にきらめく剣をかざして、それ越しに眠る聖乙女をみつめた。彼女は森とともに千年の眠りを眠る桜色の女神のように美しく、汚れがなく、そして無防備だった。

今が好機だ、それはわかっていた。今のうちに一思いに殺してしまえばいい。だが…

―なぜ、そう思う。

ライトはその答えが知りたかった。なぜか強く知りたかった。

ライトは聖乙女の心臓に向けていた剣を、地に投げ出された左手に向けた。

あれが聖具虹の指環。指ごと切り取ってしまえばいい。

ライトは銀の剣をシャキンとひらめかせた。
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