聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「見事な腕前ね! 旅の人?」

短剣使いの少女シアがカイとリュティアに歩み寄ってきた。すっくと背筋を伸ばした姿勢の良さが印象的だった。

「はい。私たちは薬草医の兄妹で私が兄のカイ、こっちは妹のリュティアといいます」

カイの声は元気がなかった。便宜上とはいえ身分に関して嘘をつかねばならないからだろうか。それにしても5日ほど前からカイは何故か元気がない気がするので、リュティアは少し心配していた。

「カイに、リュティアね―」

そこで初めてリュティアに視線を移したシアは、目をまんまるにして凝視した。ぽかんと開けはなした唇から我知らずと言ったかんじで言葉が洩れる。

「なんてことなの、まるで女神様だわ…」

素直な称賛の言葉に、リュティアはびっくりして頬を染めた。

そんなふうに人に言われたのは、生まれてはじめてだったので無理もない。

「私はシア、よろしく!!」

シアはリュティアに手を差しのべながらぱっと笑顔になった。

その笑顔に見覚えがあって、リュティアは思わず口走っていた。

「リィラ…?」

しかしすぐに、似ても似つかぬ別人と頭が理解する。だが、こんな、人の心をどこまでも明るくする笑顔を持つ人を、リィラのほかにリュティアは知らなかったのだ。

「前に出るなとあれほど言っているだろう!」

シアの後ろから長身の女騎士がぬっと現れた。

「うるさいわね! 勝ったんだから、いいでしょう!」

「いいものか!」

ゴツッと鈍い音と共に女騎士の拳がシアの頭を直撃した。

「う~~~痛い~~悔しい~~」

シアは頭を押さえて涙目になりながら女騎士の服の袖を引っ張った。

「こっちの怖~~い女はジョルデ、私の師匠よ」

「だ・れ・が・怖~い女だ!」

ぽかりと再び固い拳がシアの頭を見舞う。

「った~~!ほんとのことじゃない!」

「お前には師を敬う気持ちがないのかまったく!」

「敬われるようなことしてないあんたが悪いのよ~だ!」

「なんだと?」

「このわからずやのこんこんちき」

「じゃじゃ馬娘」

「女顔」

「…女だ!」

シアは拳を逃れてきゃ~と笑いながら逃げ出した。ジョルデという女騎士も目が笑っているから、これが二人の日常のじゃれ合いなのだろうとリュティアは解釈した。解釈はしたが、驚きは隠せない。リュティアは相当目を丸くしてしまっていただろう。
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