聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
第六章 魔月の夜

いつから、力を求めているのだろう。

何故今、こんなにも力を求めているのだろう。

いつまで、力を求め続けるのだろう。

小さな窓の中、天高く昇った月が夜更けを告げる。

安宿の二階の粗末な木の寝台の上で、ライトは月明かりにその端正な横顔を照らし、際限のない自問を繰り返していた。

目の前に広げた両掌の上には、左手に雷の球、右手に小さな炎がめらめらと燃え上がっている。

彼はさらなる力を求めていた。

その衝動は激しく、強く、常に彼を揺さぶっていた。紅蓮の大地からふつふつとわきあがってくるようなこの衝動…これは異常だ、と彼は勘付いていた。だが一方で、更なる力を求めることだけが、いつか出会う聖乙女を守る方法なのだと自分に言い聞かせていた。

ここはヴァルラムの王都ヴァラート。

アタナサリムの遺跡に現れた猿の魔月を、彼は間一髪、新たに手にした炎の力で焼き尽くし、聖具を守ることができた。石板はさらなる力―大地の封印の場所を示し、彼はそれにしたがってまっすぐにプリラヴィツェへと向かっていた。

リュティアたちが噂を信じて追っていたのは、紛れもなくこのライトだったのである。

ライトはため息をついて炎と雷を消すと、部屋の中に視線をさまよわせた。といっても、部屋の中にはライトが半身を起こす木の寝台がひとつあるきりで、見るべきものは何もない。部屋は彼の疑問に答えてはくれず、ただ家具のないせいで感じられる妙な広さでぽつねんとした孤独を感じさせるだけだった。

不意に鈍器で殴られたような頭痛が彼を襲った。

ライトは呻いてこめかみを押さえた。

最近このような原因不明の頭痛に頻繁に見舞われる。そのせいで今夜も眠れずにいるのだ。ヴァラートについてすぐに始めた用心棒の仕事で明日も早いというのに。

ライトはジョルデの読み通り、ここで金を稼いでからプリラヴィツェへと向かうつもりだった。

ライトが苦痛のあまりベッドに突っ伏しかけた時だった。階下から絹を切り裂くような悲鳴が上がった。ライトは弾かれたように身を起こした。
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