聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
二人が気まずい状態のまま、聖試合はカイが出ることに決まってしまった。

試合の日時も三日後の正午からと決められた。

聖試合は三日に渡り、一日一回、計三回の勝負が行われ、二勝した方が勝ちというルールだ。

勝敗は相手の剣が手から離れた時点で決する。

カイとろくに会話も交わせないまま、リュティアはその日を迎えることになった。

試合場が、ヴァルラムの誇る石造りの正式な練兵場ではなく、木造で修繕中の稽古場であると聞いて、フレイアは朝からぷりぷり怒っていた。

この試合を国王が軽んじているのが明らかだったからだ。

しかしリュティアからしてみれば、そんなことはどうでもよかった。もちろん、今も頭上の梁を行ったり来たりする大工たちの存在が気にならないと言えばうそになったが、それよりもカイだ。

この試合の結果なんかじゃない。

リュティアはカイを心配していた。

怪我をしないでほしい。無理をしないでほしい。

けれどそれを、本人に伝えることができなかった。

武装したカイは今、美しい横顔に険しい表情を浮かべて、稽古場の中央にて同じく武装したジョルデと向かい合っている。彼が今何を考えているのか、リュティアに知るすべはない。

国王エライアスは、特別にしつらえられた豪奢な椅子から試合の様子を見守るようだった。

フレイアはその横に座り、リュティアとザイドは彼女らの後ろの席だった。

審判となる騎士が、長々と聖試合の精神を読み上げている。

怪我をしないでほしい。無理をしないでほしい。

祈るあまり、リュティアに審判の言う内容はまったく耳に入ってこなかった。

そしていつのまにか審判が一歩さがり、試合の開始を告げようとしていた。
< 80 / 121 >

この作品をシェア

pagetop