これが、あたしの彼氏です。- 2 -


「…………」

あたしがゆっくりと顔を上げると、当然のように目の前の矢沢君と視線が重なる。

「…っ」

あたしはそれにドキリとして、つい息をゴクンと呑み込んでしまった。


「……え、えっと、さっきはありがとう。……じゃあ、あたし帰るね…」

「…………」

避けたいわけではないのに、本心とは真逆の行動を取ってしまう自分に物凄く嫌気が差す。

そんなあたしの言葉を聞いていた矢沢君が、不意に不満そうな顔をして眉間にギュッと皺を寄せた。

あたしはそんな矢沢君の表情を見ていない振りをして、この場を静かに去ろうとすると、


「待て」


不意に大きな掌が、あたしの腕をガシっと掴んだ。

「な、何……?」

戸惑うあたしに、真剣な眼差しを此方に向けて来る矢沢君。



「………、話がある」

「…………」

「ついて来い」

「…え、ちょ…っ、矢沢く――っ」

短くそれだけ吐き捨てた矢沢君はあたしの腕をグッと掴んだまま、一方的にズカズカと足を進めた。
< 16 / 120 >

この作品をシェア

pagetop