その消しゴム1mmに誓って
目が覚めると、息の上がった疲れきった身体と汗ばんだTシャツが光希を現実に戻した。起き上がると、カーテンの隙間から眩しい光の線が瞳に入る。屈折して体を巡った光は光希の身体から眠気を奪い取った。
「学校か……」
変な夢を見たんだと思う。よくは覚えていない。その代わり、色々な疑問が頭に浮かんだ。なぜ学校に行くんだろう。なぜ自分はいじめられていたのだろう。なぜいじめられていた時よりも今の方が辛いんだろう。

光希に反抗期のようなものは未だない。母親を尊敬しているし、愛している。学校に行っている第一の理由はそれだった。母親に心配をかけたくない。光希にとって普通の生徒と同じように学校に行くことは一種の親孝行だったのだ。母子家庭だった光希の中の優先順位は家庭が上位をしめている。
「光希!学校行かないのー?」
部屋の外から母親の声がする。いつも光希に学校を強要しない。そんな柔らかい物腰も光希は大好きだった。
「今行くよ!」
さっき考えて居たことは半分飛んで行った。学校に行ってみないとどうなるかなんてわからないんだから。

まあそんな考えも学校についた頃には改まっていて。あんなにポジティブだった自分が何処か遠くへ行ってしまったようだった。いつも通りの自転車登校中にはタイヤに石を放り投げられ少々の怪我を負い、朝から机と椅子を運ぶ重労働。時計の針が一周するころには光希の体は休息を求めていた。全員がグルになっている。感心してしまう程の彼らのネットワーク。自分のしらないところで彼らが繋がっていると思うと一瞬、体が震えた。そして、彼らはなにも、クラスメートだけでない。教師だってそうだ。玄関についてすぐ、一時間目は光希と宇川について学活を行うと宣言されている。少し前と何も変わらない日常に戻った。拓真の事が視界に入らなかった日常に戻った。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop