一般人令嬢は御曹司の婚約者
「………なんじゃこりゃ」

あるのはワイシャツ一枚のみ、しかも大きめ。
仕方ないからこれを着る。
袖なんか、お化けができそうなほど余っているし、裾は膝上のスカート状態だ。
下着を着けていないからスースーするし、恥ずかしいし。
どうしようかと足踏みしていると、御曹司の声が。

「まっだでっすかぁー?」

楽しいを隠しきれて居ない声音に、悟る。
わざとやりやがりましたわね、ボンボンが。
彼は変態である。
これは揺ぎ無い事実。
それでも、立てこもりの選択肢がない私は出るしかないのだ。
たとえ、こんな格好だとしても。

「おそかったじゃねーか、ご主人様を待たせるなんて、悪い犬だな」

言って、私を上から下まで眺める。
おもむろに取り出した耳と尻尾を私に着けて。
おい、予備があったのか、と気にする間もなく。

「いやー、絶景絶景」

「……一応、何でこの服を選んだか、聞かせてほしいですワン」

「よく見ろ、今は猫だろ語尾は『ニャー』だ」

「………にゃー」

おとなしく従うと、御曹司は満足そうに頷いた。

「で、このシャツを選んだ理由だけど、そこにシャツがあったからだ」

「…………」

あー、ボンボンは変態だけじゃなくて、バカのおまけつきのようだ。
救えない。

「ていうのは冗談で、それ、俺のシャツ。いわゆる『彼シャツ』ってやつ?」

「…………」

「残念なのは、それがまだ未使用ってことなんだ。近々そのくらい成長する予定で置いてたんだけど…」

残念なのは君の頭の中だ。

「でも、俺のシャツじゃ下がきわどすぎるからな。感謝しろよ」

「アリガトウゴザイマスニャー」

一体どこに感謝すればよいのだろう。
この疑問に答えてくれるような人は、残念ながら居ない。
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