一般人令嬢は御曹司の婚約者
りゅうせつ
まぶたの裏に光を感じて、意識が徐々に浮上する。
ああ、いつの間にか寝落ちしていた。
今何時だろう。
体を起こそうとしたが、何かが絡みついて動けない。
もぞもぞと身じろぐだけに終わった。
扉の開く音がして。

「おはようございます、坊ちゃま、朝にございます………」

「……………」

現れたのは、名前も知らないメイド。
彼女と私の視線が交わり。

「キャー!」

悲鳴を上げて彼女は走り去った。
え、今何が起こった。

「……ぅ、るさいなぁ。もう朝か」

寝起きのかすれた男の声が後ろから聞こえてくると同時に、腰と胸のあたりの拘束が強まった。

「ちょ、何!?」

「あと5分ー」

さらに首筋に鼻を摺り寄せられて、はいそうですか、なんて流せるはずもなく。

「ひいぃぃっ!」

鳥肌とともに情けない悲鳴が私の口からもれた。
必死の抵抗に緩んだ拘束を転がり抜け出すと、一瞬の浮遊感ののち、腰に衝撃が走った。

「…ったーいっ!」

腰をさすりながら周りを見ると、それは見慣れた御曹司の部屋。
いつもと違うところと言えば、部屋中にクッションが散らばっていることだろうか。
瞬きしても、目をこすっても、見える景色は変わらない。
外では朝を告げる小鳥たちが鳴いている。

「うるさいな。あと5分寝かせろと言っただろ」

頭上から降ってくる御曹司の声。
おやすみの邪魔をされて不機嫌そうだ。
そんなことより、聞きたい。

「私、どうしてここに……」

「覚えてねぇのかよ。……昨日お前、途中で倒れただろ。だから、ベッドに運んでやったんだよ。ありがたく思え」

枕投げの途中で、な。

「そらどうも。でも、なんで御曹司が一緒に寝てるのよ?」

「これは俺のベッドだからな。俺がここに寝るのは何の不思議もない」

そりゃそうだわ。
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