一般人令嬢は御曹司の婚約者
遅れて参加した私を見る使用人の目は、温かいものだった。
すれ違うメイド、庭師、料理人、他。
屋敷で会うすべての人にぬるい目を向けられる。
遅刻したことを責めるものはいない。
自分から叱られに行く勇気もないので、黙っているが。

「ねぇ」

「………なんでしょう」

昼食をとっていると、メイドが3人寄ってきた。
寄ってたかって何する気だ。
警戒していると、彼女たちは私を囲むように席に着く。
椅子をずらして距離をとる。
それでも気休め程度にしかならないが、箸を置いて話を聞く姿勢をとった。

「あんたさぁ、今朝隆雄様のお部屋から出てきたメイドでしょ」

「…………」

肯定すれば、どんな嫌がらせを受けるかわからない。
否定すれば嘘になる。
かわすための方便が浮かばなくて、無言を通す。
だが、無言を肯定の意味ととられた。

「そうなのね………」

「隆雄様があんたをねぇー」

「で? 隆雄様のお部屋で何をしていたの?」

「ずっと腰を庇っているように見えたけれど、さぞ隆雄様と激しい夜をお過ごしになったのでしょうね」

馬鹿にしているのかと思う言動だが、態度が乙女な彼女たち。
嫌な気はしないが、変な寒気がする。
枕投げをして暴れまわった、なんてことは言えないので、言葉を濁した。

「…………ええ、なかなか寝かせていただけませんでしたわ」

「キャー!!」

「寝させないって!」

「強引な隆雄様も素敵ー!」

……精一杯、言葉を選んだつもりだ。
どこに彼女たちをこうさせるツボがあったのだろうか。

「で、で? 隆雄様はお上手でしたの?」

「………ええ、まぁ…………」

押され気味に答えたが、あのノーコンっぷりはお世辞にもお上手とは言いがたい。

「その首輪、隆雄様のものって印でしょ?」

「キャー、独占欲ね!」

「……は、はぁ」
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