クラッシュ・ラブ


「ユキ!」


パーティー会場であるホテルに足を踏み入れると、すぐにオレを見つけて近づいてきたのは澤井さんだ。


「遅刻か……もしくは来ないかと思ってたよ」
「……そんなことしたら、後が怖くて」


健康的な小麦色の肌をして、爽やかに白い歯を見せる澤井賢太郎(けんたろう)さん。彼は31歳で、オレの担当。かれこれ6年ほどの付き合いになる。
デビューしてから3人目の担当だけど、正直、一番話が合う気がしてる。

ただ――。


「なんだ、それ。もしドタキャンされたら、今の連載巻頭カラーに捻じ込んで、別冊で読み切り入れて、コミックスの描き下ろしも――」
「死にますよ、オレ」


顔面蒼白で答えたオレに、超絶優しい笑顔を向ける澤井さん。
男のオレでもカッコイイって思うから、世の女子もこの笑顔を見たら大変だろう。

その甘いマスクの裏にある、Sッ気にいつも怯えるオレ。


「そういや、この前咳してたけど、死んでなかったみたいだな。なによりなにより」
「……オレひとりだったら死んでたかも」
「え? あー、和真くんとヨシか」
「いや……」


当然、オレのサポートしてるカズたちのことも知ってる澤井さんは、彼らのおかげだと思うわけだ。
なにせ、6年。知らないことはあまりない。オレは、澤井さんの知らないとこはまだまだあるけど。


「あれ? だって、アキさんは今居ないんだろ?」
「その、代わりで来てる人が……」


ミキちゃんを思い出すと、急に落ち着かなくなったオレは、無意識にメガネを押し上げようと手を顔に近づけた。

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