クラッシュ・ラブ

「ミキさんて、面白いですよね」


くすくすと、笑い続けられても、わたしにはなんのことだかわからなくて、ぽかんと立ち尽くすだけ。
杏里ちゃんは、にこやかな表情のまま、向かい側のアイスのコーナーを覗くようにしながら続けた。


「あたしよりも歳上ですよね? いくつですか?」
「え……っと、もう20になるけど」
「ハタチですか! 全然見えないですね」


……それは、どういう意味だろう?
杏里ちゃんの言うことがひとつも理解できないわたしは、アイスを選んで手に取る後ろ姿をじっと見つめていた。

杏里ちゃんのすらりと伸びてる手足が、白くて細くて。
女の子らしい後ろ姿に、同性のわたしですら、ほんの少しドキリとしてしまう。

彼女は、片手で落ちる髪を抑えながら、青い箱のアイスを手に取った。


「――ミキさんて“キャラ”的に、すごい参考になりそう」


伏し目がちに、一瞬見られた視線が、今までの杏里ちゃんではなかった。
恋敵(ライバル)に余裕をチラつかせるような、上からものを見る目――。


「……キャ、ラ……?」
「はい! “生きた資料”ってカンジですよぉ」


ブルーの箱を、キラキラとしたネイルでなぞるように弄ぶ。
彼女の顔も、服装も、髪型も、メイクも、なにもかも、自分とかけ離れていて眩しく見える。

その眩しさに、なにも言えずにいたわたしに、無邪気な笑顔で杏里ちゃんは近づいてくる。
そして、急に、声のトーンを落とした。


「いわゆる……“メシスタント”ですよね? ミキさん。だったら、料理も仕事も手伝える、あたしの方が役に立ちそうですよね。ユキ先生も即戦力の方がいいに決まってます」

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