クラッシュ・ラブ

「一見か弱そうなのに、芯はある――か」
「え?」
「なんでもねぇよ」


ものすごいくぐもった声だったから、良く聞こえなかった。
聞き返しても、予想通り二度も同じ言葉は言ってくれなかった外崎さんは、くるりと背を向けてしまう。

ああ……。やっぱり、そんな都合いいことないよね。
仕事の内容もだし、もしそんなことがあったとしても、この人がわざわざわたしなんかになにかを教えるなんて……。


「なにしてんだよ。早く来いよ」
「えっ」
「ったく。俺にスケジュールに余裕あったこと、感謝するんだな」


ぶっきらぼうに言いながらも、どこか言葉の端端に温かさを感じる。
外崎さんが半身を開けるように、パソコンの前に指でわたしを呼んだ。


「……ありがとうございます」


彼の隣に遠慮がちに並んだときに、ぽつりと小さくお礼を言った。けど、その言葉はなかったかのように、外崎さんはそのままスル―。


「単純なトーンだけでも助かるはずだ。余裕があれば、削りとかも練習してみたらいい。あと、レイヤーの動かし方くらい知っとけば」


“トーン”は聞いたことあるし、実際に貼ったことはあるけど、パソコンで貼りつける作業はしたことがない。
それに“削り”とか“レイヤー”とかって……。

聞き慣れない言葉に頭をぐるぐるとさせながらも、必死で手早い見本作業を目に焼き付ける。
それでも当然、一回で習得できるわけがなくて。そのあとも何度も聞いたり、実際にやってみたりをひたすら繰り返してた。

しばらくすると、確かに単純作業と言われるトーンのやり方はなんとなく覚えた。
応用はてんでダメ。
だけど、最大限出来ることまでするって……途中で諦めたりしないって決めたから。

ぶつぶつと無意識に口から漏らしながら、パソコンの画面に近づき過ぎなわたし。その横で、机の縁(へり)に浅く腰を掛けて、上から見下ろしていた外崎さんが口を開いた。


「……なぁ。このまま、俺んとこ来れば」

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