クラッシュ・ラブ

「……この間も言ったけど、オレも男なんだよ?」
「――――えっ」


私の顔に影を落とす雪生は、紛れもなく男の人で――。


「自制するにも限界がある」


うねった前髪から覗く瞳に吸い込まれる。
――瞬間。雪生はメガネを外し、わたしの髪ごと頭を掴むと深くキスをした。

そのキスは、今までのどのキスよりも比べものにならなくて。圧倒されるように、立っていられなくなって後ろへよろけてしまう。
後退してしまったにも関わらず、唇は重ねられたままで。


「――――ん、ぅ……」


窒息しそうなほど長く塞がれた口から、体が勝手に“酸素を取り込んで”と指令する。薄らと唇を割って息を吸い込もうとした矢先、雪生の熱い舌が侵入してくる。

一度開いてしまった口は、閉じることができない。
カシャン、と足元でなにかが落ちる音がする。それすらも確認できないくらいに、今、目の前の雪生とのキスに夢中だ。

どちらからともなく聞こえる、短く荒い息遣いと卑猥な水音。
正直、こんなふうにキスをしたことなんかないから、流れについていくのに必死。なのに、自分からも求めるように舌を絡ませ合うなんて、わたしどうかしちゃってる。

いつの間にか、玄関のドアに背を預けながら。
忙しなく顔の角度を変えながら、深く深く浸食されゆくキスで、甘美の時間を彷徨う。


肩で息をしながら徐々にスピードが緩まり、離れた唇が銀糸で繋がれる。
まさか、自分がこんな官能的なキスをする日が来るなんて、夢にも思わなかった。

いつしかトロンとした瞼を押し上げ、羞恥に見舞われながらも雪生を見る。


「――だから、そういう表情(カオ)がっ……」


煽られたような顔をした雪生が、やっぱり苦しそうに言うと、再び口を押しつけてくる。
『また、苦しいほどの甘いキスがくる』と思ったときに、するりと雪生の手がわたしの服の中に滑り込んできた。

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