クラッシュ・ラブ
「……いいの?」
こういうときのセンセって、本当に表情とか言い方とかが子どものようで。
たまに見せるそういう姿に、ドキリとしてしまうのって、女子ならみんなそうだと思う。うん、わたしだけじゃないよね、この感覚。
声が上ずらないように、至って普通に。
自分を落ち着けながら、自然な笑顔を浮かべるようにして、わたしは答える。
「はい。問題ないです」
本当は、うれしい。
ていうのは、仕事以外の彼を垣間見れるかもしれない、と思って。
と、同時に、確信せざるを得ない。
まだなんにも知らないのに、わたしはユキセンセのことが好きになってるんだ、と。
自分の気持ちを認めてしまうと、途端に心臓が騒ぎ出す。
ただ、同じ部屋にいるだけなのに、どうしようもなくときめいてしまう。
でも、それに気付かれちゃいけない。まして、ここにはカズくんたちがいるんだし。
わたしの気持ちが、ユキセンセ本人に気付かれたらもっといけない。
仕事の邪魔になるかもしれないし、嫌がられるかもしれないし。
ちょっと手を繋いだり、キス、したり……明確な言葉を言われたことなんか一度もないのに、“勘違い女”って思われる可能性だってゼロじゃないもん。
「決まりですね! じゃ―その前に、センセ、“無事脱稿”を目指さないと」
「…………はぁ」
カズくんの言葉に、肩を落として小さく溜め息をついたセンセ。
好きになるって、すごく単純で、一瞬。
だけど、その気持ちを抱いたまま、それからどうするのがいいのかが、不明。
だからわたしは、ただ、与えられた環境を全うして、流れに身を任すことしか出来なさそうだ。
センセの食べ終えたお皿とスプーンを手にしただけで、キュンとしてしまうわたしは、久しぶりとはいえ、重症かもしれない。