正義のヒーロー
キーンという澄みきった音に意識が戻された。
男の声に押されたように、ボールは流されるままに前へ飛ばされていく。
まるで進むことしかできないかのように、まっすぐ一直線に小さく空に溶け込んでいった。
完全にボールが見えなくなってから、一人のおっさんが雄叫びを上げて立ち上がる。
つられるように、おっさんたちが次々に立ち上がったて喜んでいた。
男がホームベースを踏み終わってから、俺に向かって指を指した。
「逆転満塁サヨナラホームラン!」
ニカッと無邪気に笑う男に、塞がらない口を開けっ放した情けない顔をしてしまった。
「正義の…ヒーロー」
もうすぐ訪れる夏の熱さに比例して、心の鼓動は早くなっていく。