そのとき僕は
先輩から教えて貰ったばかりの知識を引っ張り出して、僕はムスッとしたままで言う。
「『桜の木の下』?」
「そう、それよ。まあ判らなくもないよね。花びらの色で幹までピンク色の液が出るらしいから。この時期の桜はね。根元に埋められた人間の血を吸って伸びてるって謂れも仕方ないかもね~」
「・・・へえ」
幹まで赤い。そうなのか。
で、結局、君は生きてる人間ってことでいいんですよね?目の前の女の子は既に僕から興味を失ったように、花びらを盛大に降らせてくる木を見上げている。
ひらひらはらはらと落ちる花びらと、少年のような彼女。木の幹の茶色や足元の草の緑も映えて、それは確かに美しい景色だった。
毎日、ここに一人で。・・・そりゃナンパもされるよな。
僕は突っ立ったままでボソッと呟いた。
「・・・ここで何してるのか知らないけど」
彼女が視線だけを僕に寄越す。
「ここにいたいなら、一人は止めたら?危ないよ」
大体、よく見れば本当に華奢で、いかにも弱そうな女の子だった。肌が白くて瞳の色が薄いので余計にそう思えるのだろうか。
それとも、これも桜の魔力か。
何だかいまにもぼやけて霞んで消えてしまいそうな、彼女を見ていた。