そのとき僕は
「いいの」
僕にむけていた視線をゆっくりと外して、少女が言った。
「いいのよ、ここに居たいんだから」
それから急に声の明るさも大きさも変えて、そうだ!と叫んだ。ビックリした僕はえ?と身を縮める。何が起きたのかと思った。それくらい、急な変化だった。
彼女はにっこりと笑って、指先を伸ばす。
振り返った僕の視線の先にはここら辺で一番大きな神社の屋根。正月なんかは初詣の人出で凄いことになる由緒正しいあの神社の境内も、今頃はこの風で桜吹雪の洗礼を受けているはずだった。
「おみくじ買ってきてくれない?ねえ」
彼女は手品みたいに100円玉を僕に差し出した。
「おみくじ?」
よく判らなくて聞き返すと、うんと頷く。あたしはここを離れたくないからって。代わりに買ってきてくれない?って。
「・・・」
正直言うと、何故僕が。そう思った。だけれども既に僕の手は彼女からその1枚のコインを受け取ってしまっていたし、それにまだまだ時間もあった。今晩はバイトもなくて、文字通りに暇人だったのだ。
僕が頷いたのを見て、彼女はにんまりと笑う。
「幽霊って、お金持ってんの?」
「・・・僕が悪かったよ」
うんざりした。・・・よく判りました、君は確かに生きていて、ここに居るんだって。