初恋ピエロット
「宮、よく逃げられたね」

「ああ。あいつら弱いんだ」

宮は、あたしの髪をいじりだす。昼と違って夜は髪はストレートであちこちに色を入れてるから、いつもより綺麗だ。

「恵さん!またオーギュストが新型ウイルスを!」

倉庫の隅の方から、あたしを呼ぶ声が聞こえた。

「ん?・・・・ぁあ、めんどくさいね。うん、明日までに消しとくから悠も向こう行って話し合いな」

「ありがとうございます!恵さん!」

もう終わりがけの話し合いに二人で入り込む。宮と目が合い、軽く微笑まれた。

「恵が、今日向こうのリーダーに接触したそうだ。」

宮が告げた瞬間、周りがいきなりざわめき出す。

「そんな!恵さんは大丈夫なんですか!?」

「恵は正体バレてないんですか!?」

周りのざわめきで、宮の声が聞こえない。あたしがUSBを机に投げ落とすと、そのざわめきは恐ろしい程にピタッと止まった。

「これ、イル達、オーギュストのウイルス作成ソフト。実はイルと同じ学校でさ。さらっとカバンからくすねちゃえるんだ」

「だ、そうだ。だから、バレてもいないし、危険もない。それに、リーダーの片方がまさか自分から行くなんて敵も思わないだろう?」

宮とあたしは目を合わせ悪戯っぽく微笑む。

「確かに・・・」

「それより、宮。今日イルは実力行使に出るつもりだから、そろそろ離れないと」

「あ、ああ。もうそんな時間か・・・。じゃあ、みんなあとはよろしく。」

そう言いながら宮がソファから立ち上がり、メンバー全員参加の話し合いが終わる。メンバーはそれぞれの場所に戻り、あたしたち二人は外に出るため、シャッターの前に立つ。

「恵。ほんとに気をつけてくれよ。頼むから」

宮はあたしの額に唇を軽くつけながらつぶやく。

「大丈夫ってば。宮の心配するようにはならない。ハルトの二の舞にはならない」

あたしはそう言いながら、宮の体を押し返す。宮はあたしよりも20センチくらい背が高い。顔を見るには、見上げるしかないのだ。

「恵」

「大丈夫、先に車出してもらってるね」

あたしはそういい、宮をシャッターの前に残し、裏口からでた。目の前にはバイクや自転車。車などがたくさん置いてある。メンバーたちのものだ。あたしはそのうちの一番身軽そうな車に飛び乗り、ドアを閉める。その時、後ろからいきなり声が響いた。

「よぉ。リーダーさん?」

後部座席から聞こえた声。それは、さきほどまで聞いていた声。

「イル、か」

あたしはそうつぶやき、後ろを振り返る。そこには、赤い髪に染め、さきほどまでかけていた黒いメガネはしていない。

「へぇ。俺のこと知ってるとは意外だな。驚かないのか?」

イルはおもしろそうに笑う。その笑い方は嫌いだ。こっちの心の中まで見透かされているような気がする。

「なめないで。何の用?」

素っ気無く返す。

「冷たいなぁ。いや、君の相棒をちょっと借りていこうかと思ってさ。どうかな?」

イルは笑いつつも、あたしの首元にナイフの切っ先を当てたままだ。

「あたしは、あなたの私生活をしっている。本名、家族構成、学校、友人、恋人、すべて。宮に何かしてみなさい。小鳥遊慧愛を殺すから」

そういった時、イルのナイフに力がこもったのがわかった。あたしの首元から一筋の血が流れ出す。すこしだけ痛い。

「おま、えは、誰だ?」

イルの顔は青ざめ、ナイフは震えている。

「道化師セレネ」

「違う!!!俺の私生活を知っているということは、裏切り者だろッッ!!!」

完全に気が狂ってしまったのか?なおもナイフを押し付けてくる。痛みがどんどん耐え難いものになってくる。あともう少し。あともう少しで、こいつに勝てる。

「あ?仲間は信用しなきゃ。ねぇ、そうでしょ?野田太一くん?」

ガタンっ

「っっっ!」

いきなり座席に押し倒される。やばい。やりすぎたかな。イルは、こっちを暗い瞳で見つめながらつぶやく。

「お前も宮も殺してやるよ。なめるなよ、糞が。最低のやり方で、いたぶってやるよ」

まったく宮は何をやっているんだ。早くあたしを助けに来いよ。このままじゃ、まじでやばいぞ。

「はっ、暴力に任せることしか出来ないなんてな。無様な外道野郎め。」

あたしはなんとか時間を稼ぐためにも、わざと怒らせる。宮。ほんとに遅いじゃないか。どうしたんだよ、一体?

「黙れ。これからお前を俺たちのアジトに連れて行く。それまでおとなしくしてろ」

そうイルが言った時、窓から一つの光が見えた。

「さあ、そんなにうまくいくかな?」

あたしはそれを見てニヤついて答える。その瞬間、車ごと爆発した。





「恵!恵!無事か!」

宮の声が聞こえる。ゆっくり目を開けると、そこは白い粉塵の中だった。
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