ときどき
そこに顔をのぞかせたのは、足立くんの母親と思しき女性だった。
不躾なことを考えるが、長男の好己さんの年齢を考慮すると五十歳程度だろうか。年相応の落ち着いた雰囲気だが、目元の辺りが絵美ちゃんとよく似ていてどことなく可愛げがある。
彼女は、自宅に突如現れた見知らぬ若者にひどく驚いた様子だった。
説明を求める視線がごくごく自然に好己さんに向かう。
「ああ、こっちね、浅野弓弦ちゃんと佐伯雅人くん。実里の高校でのお友達」
「おじゃましてます」
私と佐伯くんは同時に声を発すると、ぎこちなく会釈した。
今まで親の気配がしなかったこの家におばさまが入って来たことが、私にはそれなりに衝撃的だった。
いや、別にやましいことしてたわけじゃないんだけどさ。
同級生の親の前って緊張する。なんだか、いやでも「おたくのお嬢さん、もしくはお坊ちゃんとは仲良くさせていただいてるんですよ」オーラを発することが義務づけられている感覚がするのだ。
大して仲良くもないクラスメイトの母親が授業参観などで現れた時でも、反射的ににこやかな挨拶を向けてしまうのはそういう潜在的な義務感によるものだと思う。
まあ、この場合は・・・別に足立くんと仲悪いわけでもないしなあ。
気を持ち直して挨拶がてら世間話でも、と口を開いたはいいが、足立母と目が合った私は思わずぽかんと口を開けたまま固まった。
「み、実里にっーーー友達っーーー!」
「・・・・・・」
「ああ、ごめんなさいねえーーーありがとうねえ、こんなところまでーーー」
大の大人が感涙に咽ぶ姿というのを、私は今日初めて見たのだった。
あられもなく両の目から涙をこぼす母親の姿に、足立くんが珍しく照れた様子で席を外すのが視界の端に入った。
謙也くんは勉強の手を止めたはいいが、どうすればいいのか分からないようだ。
案の定「いや、ごめんねー」と我々にフォローをしたのは好己さんだったが、その両目はふるふると潤んでいた。なにもらい泣きしてるんだ、この人は。
「由美ちゃんも久しぶりねえーーー」
「はい、お久しぶりですおばさま」
渡部さんの小ぶりなバッグから白いレースのハンカチが出て来た。渡部さんはそれをごく自然な動作でおばさんに手渡す。
なんなんだろう、この子。育ち良さすぎる。
おばさんはそれをやんわりと断ると、手の甲で涙を拭った。動作の種類としては雑なはずだが、品性が感じられる。
「ごめんなさいねえ、ああ、なにか食べていくでしょう?どうしましょ、あっ、好己あれ持って来て!物置!」
涙を拭ったおばさんは明るい声を出すとごくごく自然に好己さんを走らせた。
数分後、戻って来た好己さんの腕には昔懐かしいかき氷器が抱えられていた。
不躾なことを考えるが、長男の好己さんの年齢を考慮すると五十歳程度だろうか。年相応の落ち着いた雰囲気だが、目元の辺りが絵美ちゃんとよく似ていてどことなく可愛げがある。
彼女は、自宅に突如現れた見知らぬ若者にひどく驚いた様子だった。
説明を求める視線がごくごく自然に好己さんに向かう。
「ああ、こっちね、浅野弓弦ちゃんと佐伯雅人くん。実里の高校でのお友達」
「おじゃましてます」
私と佐伯くんは同時に声を発すると、ぎこちなく会釈した。
今まで親の気配がしなかったこの家におばさまが入って来たことが、私にはそれなりに衝撃的だった。
いや、別にやましいことしてたわけじゃないんだけどさ。
同級生の親の前って緊張する。なんだか、いやでも「おたくのお嬢さん、もしくはお坊ちゃんとは仲良くさせていただいてるんですよ」オーラを発することが義務づけられている感覚がするのだ。
大して仲良くもないクラスメイトの母親が授業参観などで現れた時でも、反射的ににこやかな挨拶を向けてしまうのはそういう潜在的な義務感によるものだと思う。
まあ、この場合は・・・別に足立くんと仲悪いわけでもないしなあ。
気を持ち直して挨拶がてら世間話でも、と口を開いたはいいが、足立母と目が合った私は思わずぽかんと口を開けたまま固まった。
「み、実里にっーーー友達っーーー!」
「・・・・・・」
「ああ、ごめんなさいねえーーーありがとうねえ、こんなところまでーーー」
大の大人が感涙に咽ぶ姿というのを、私は今日初めて見たのだった。
あられもなく両の目から涙をこぼす母親の姿に、足立くんが珍しく照れた様子で席を外すのが視界の端に入った。
謙也くんは勉強の手を止めたはいいが、どうすればいいのか分からないようだ。
案の定「いや、ごめんねー」と我々にフォローをしたのは好己さんだったが、その両目はふるふると潤んでいた。なにもらい泣きしてるんだ、この人は。
「由美ちゃんも久しぶりねえーーー」
「はい、お久しぶりですおばさま」
渡部さんの小ぶりなバッグから白いレースのハンカチが出て来た。渡部さんはそれをごく自然な動作でおばさんに手渡す。
なんなんだろう、この子。育ち良さすぎる。
おばさんはそれをやんわりと断ると、手の甲で涙を拭った。動作の種類としては雑なはずだが、品性が感じられる。
「ごめんなさいねえ、ああ、なにか食べていくでしょう?どうしましょ、あっ、好己あれ持って来て!物置!」
涙を拭ったおばさんは明るい声を出すとごくごく自然に好己さんを走らせた。
数分後、戻って来た好己さんの腕には昔懐かしいかき氷器が抱えられていた。