狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~




「自分の肉親であろうと愛する者であっても、私の邪魔をするのなら消し去る」




男は椅子へと続く階段をゆっくりと上っていく。
一歩一歩、自分の地位の高さを確かめるかのように。




「この世界に不純な者は必要ない。
純血な妖怪、純妖だけが存在すればいい。純妖こそがこの世界の全てであり、美しいものなのだ」




階段を上りきり後ろを振り返る。
そこには四人が一列に並び、片膝をついて頭を下げている姿があった。




それを見て満足そうにニコッと笑い、男は椅子に腰を下ろした。




「純妖だけの世界を創るために、君達の力を借しておくれ。この妖王、黒兎に」


「「「「全ては妖王の未来のために」」」」




妖王・黒兎の言葉に四人全員が声をそろえて答えた。
そして四人は風のようにその場から姿を消した。




四人が消えると黒兎は力を抜いて、背もたれに寄りかかった。




「……盗み聴きなんて趣味が悪いね、二人とも?」


「あはっ!バレちゃったよぉ〜、さっすが黒兄様ぁ!」


「気配を消しても、黒兄さんにはお見通しだって言ったでしょう?」




黒兎が声をかけると暗闇からフード付きマントを被った二人が現れた。
一人は小柄であり話し声からすると少女、そしてもう一人は背が大きく少女よりも低い声から男だと考えられる。




黒兎に気付かれても陽気な二人に、黒兎は困ったように笑った。




「…それで?君達はこんなところで何をしているのかな?」



黒兎は脚を組み頬杖をつくと、二人を透視するように目を細めた。




すると少女がクルクルと回り、楽しそうに笑った。




「だってぇ〜、黒兄様が面白そうな話してるの聞こえたんだもぉ〜ん」




少女の声音は語尾に音符がつきそうなほどに軽い。
愉快に踊り出す少女を見て、男は頭を抱えてため息をついた。



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