狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~

憎キ運命





屋敷に帰ってきてからも、私の頭の中はモヤモヤしたまま。




その理由はさっきの三篠と琴葉さんの会話のことで。




『だ、だって黒兎はアンタの……!』
琴葉さんはこの後、何を言おうとしてたんだろう。




二人きりになった時、三篠に聞いてみようかな。
でももしかしたら聞いちゃいけないことかもしれない。




そう思うと余計に聞きづらくなっていった。




とりあえずお風呂に入って考えようと、露天風呂の浴場にやってきた。




三篠は桔梗さんと話があるとかで、桔梗さんと仕事部屋に行ってしまった。




一人でお風呂に行くと、そこには先客がいた。




「…あら?お帰りになられてたのですね、小雛様」


「……深寿さん」




お湯の入った桶で体を流していたのは深寿さんだった。
深寿さんは私の姿を見ると、ニコッと微笑んだ。




私はササッと洗い、また深寿さんの隣に座った。




沈黙の中考えるのは、三篠と妖王のこと。




黒兎ってどんな人なんだろう。
私達の敵になる人だけど、どんな人なのか少し気になる。




「…胡蝶ノ国はいかがでした?
皆さん明るい方ばかりだったでしょう?」


「え、あ、はい!
もう皆さん結構迫ってきて大変でしたけど、皆さんとても明るくて皆さんいい人でした」




考え事をしていたせいで、返事が一瞬遅くなってしまった。
…私、ちゃんと笑えてたよね?




いつものように笑ったつもりだったけど、深寿さんには気付かれていたようで。




「…楽しかったのでしたら、何故浮かないお顔をしているのですか?」




すぐに私が何かに悩んでいるとバレてしまった。




深寿さんにはやっぱり敵わないな。




私は帰り際に三篠と琴葉さんが話していたことを、深寿さんにも話した。




「…それで三篠とその妖王の関係が気になってるんです……
琴葉さんが悲しそうな顔してるのが忘れられなくて」



ここまで話すと、一つの考えが浮かんでくる。




もしかしたら三篠の育ての親的存在である深寿さんなら、二人のことを知ってるんじゃないのか、と。




「…あ、あのもしかして深寿さん何か知ってたりしますか……?」


「……っ!」




私が聞いた瞬間、深寿さんの目は大きく見開いた。




まるで聞かれたくないことを聞かれたような。




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