きっともう大丈夫

幸せ

あの旅行から半年がたった。
私は今、一人で店に残って明日の結婚式のためにハルのブートニアを作っていた。
本当は自分のブーケを作りたかったんだけど
「沙希はハルのブートニアだけ作ればいいからね。後は私に任せて」
という詩織の押しに負けて
私はハルのブートニア作りをしていた。
本来ならブーケとブートニアは同じ花を使って作るのだけれど
詩織・・・大丈夫なのかな?と不安になりながらも作っていた。

翌朝、式場での準備に追われ、詩織にブーケの確認が取れないまま
時間だけが過ぎていた。
支度が整いあとはブーケを待つばかりと控室で待っていると
ノックの音が聞こえた。
「はいどうぞ」
するとそこにはかっこよくスーツを着こなした小さい紳士が立っていた。
「雄太!」
「さーたん!凄く綺麗」
雄太は目をキラキラさせながらドアの前に立っていた。
いつもならそのまま抱きつくのに今日は珍しく立ったままだった。
よく見ると雄太は後ろに何かを隠し持っていた。
「雄太こっちおいで」
すると雄太がゆっくりと私の方へ歩き
私の目の前で止まると
「これ・・・渡してくれって・・・」
それはブーケだった。
私はブーケを受け取ると雄太に
「これはお母さんから?」と聞いた。
すると意外な答えが帰ったきた。
「パパの知り合いのおじちゃんからさーたんに渡してってたのまれたの」
受け取ったブーケはハルのために作ったブートニアと同じ花が
使われていたが、雄太の返事でそれが誰からの物なのか
すぐにわかった。
明良からだった。
ブーケにはメッセージカードが添えてあった。
そこには
『沙希へ
 結婚おめでとう。
 君の幸せを心より願っています。
      明良       』
「明良・・・・・」
明良がいなければ今の私はなかった。
楽しかった事も辛かった事も・・・・
彼との事があったから、ハルと再会することができた。
きっとこれが運命だったと今、素直に思える。
明良の作ってくれたブーケは私の好みを知り尽くしたもので
熱いものがこみ上げてきた。
すると再びノックの音が聞こえた。
私は溢れそうになる涙をぐっとこらえた。
「はい」
そこには千沙ちゃんを抱っこした詩織がいた。
「ブーケは気に入ってもらえた?」
「うん・・・でも、これって・・・」
「黙っててごめん。いっくんが明良にあんたとハルが結婚することを
知らせたのよ。そしたらどうしても沙希のブーケを作りたいって。
あんた自分のブーケは自分で作りたいって言ってたから一度は
断ったんだけど・・・・・どうしてもって譲らなくって・・・それで
お願いしたのよ。」
「そ・・・それで明良は?今日・・来てるの?」
「・・・来てるわよ。娘ちゃんと一緒に・・・どうせあんた話したいんじゃないかなって思ったからいっくんにお願いして引き止めてもらってる。
…呼んでこようか?」
私は何度も頷いた。

しばらくすると明良と娘のまゆりちゃんが訪ねてきた。
「あーーーーー!さきちゃんおよめさんだ!」
目をキラキラさせたまゆりちゃんが寄って来た。
ウエディングドレスをなでるように触り
いいないいな・・まゆりも着たいな~とつぶやいてる姿がかわいかった。
「明良・・・」
明良はバツの悪そうな顔で立っていた。
「沙希・・・おめでとう」
「ありがとう。ブーケ・・・凄く素敵。ありがとう・・・」
「俺がこんな事言えた義理じゃないが・・・今度こそ幸せになれよ。」
「・・・・うん。幸せになる」
私は思いっきり笑顔で答えた。
「そこまでいい顔されるとな~」
明良は苦笑いしながらまゆりちゃんの手をとった
「これ以上、一緒にいると春斗くんに睨まれそうだから俺は失礼するよ」
そう言って部屋を出て行った。

私は椅子から立ち上がると外を眺めた。
私とハルは出会いから10年たった今日結婚する。
まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。
そしてこんなに私の事を思ってくれる人に再会できるとは
思いもしなかった。
私はそっとお腹に手を当てた。
「結婚式の後にちゃんとパパにあなたの事を報告するからね。
きっと驚くわよ。」
私のお腹の中に赤ちゃんがいます。
わかったのは式の1週間前で今9週目に入った。
せっかくだから結婚式の後に報告しようと思って今日まで
内緒にしてた。
もちろん詩織も知らない。
ハルの驚く顔を想像しながらそっとお腹に触ると自然と顔がほころぶ。
今私はとても幸せです。

部屋をノックする音が聞こえた。
係りの人だった。
「沙希さん。お時間です」
「はい。」
私は小さな声でお腹の子に
「パパの所に行きましょ~」
私は愛するハルの元へと部屋を後にした。


end
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