BitteR SweeT StrawberrY
         *
少しだけ残業をして、退社したあたしは、大輔との待ち合わせたレストランに向かった。
付き合い出した頃から、大輔とよく来てる洋食屋さん。
大輔はここを気に入ってるみたいで、食事の時は、大抵で待ち合わせていた。
付き合い出した頃、誕生日の時に一度だけ、高級ホテルのレストランに連れていってもらったけど・・・
飲みに行くときはチェーンの居酒屋さんだし、時々、ラーメン屋さんとかに行く感じで、そういえば、あたし、大輔と行く場所って大抵お決まりの場所だな。
たまにディズニーランド行ったり、連休の時に沖縄とかに旅行には行ったけど・・・・普段は、いつだって、決まった場所しか行ってなかった気がする。
だから、この間、ケイに連れていってもらったショットバーは、すごく新鮮で、ほんとに、あたしの知らない世界は多いって、そう自覚したんだっけ。

あの時は、嬉しかった・・・その上、なんだかすごく幸せな気分だった。

大輔はまだ来てなくて、あたしは、ぼーっとしたまま座って、窓辺の下に見える人ごみを眺めながら、そんなことを考えてた。
気を抜くと涙が出るから、頑張って堪える。
あたし、なんでこんなに情緒不安定になってるんだろう。
大輔に会えるのに、嬉しくないの?
大輔がいるのに、ほかの人を・・・しかも女の人を好きになって・・・
今、その思いを、必死で自己完結させようとしてるあたし。
自己完結したいなら、やっぱり大輔の方が好きだって、そう思えればいいのに、そんな感情すら沸いてこないなんて。

あたしって、なんて勝手なんだろう。
なんてひどい奴なんだろう。
そう思って、じわじわって涙が出そうになった。

「優子ちゃん!お待たせ、ごめんね!」

その時、あたしの頭の上から、大輔の声が聞こえた。
あたしは、ハッとして、片手で目を拭くと、できるだけ明るい笑顔を作って、大輔に振り返った。

「あ・・っ、お、お疲れさま!大丈夫・・・だよ」

「会社出ようとしたらさぁ、上司に捕まっちゃってさ」

大輔はいつものように朗らかに笑って、あたしの向かいに座る。
とりあえず、注文を済ませて、あたしは、大輔の話しを聞きながら、また、なんとなく窓の外を眺めてしまった。

「昨日のクライアントは手ごわかったよ~、もう、堅物って感じでさ、さすがの俺も参ったなぁ。なんか疲れてさぁ、思わずネットで初目クミの動画とか思いきり見ちゃったよぉ」

あたしの心の中の複雑な思いに気付かない大輔は、ほんとに、いつものように、朗らかに脳天気に、そんな話しをしている。
時々頷いたり、笑ったりして答えるけど、あたしは、ラジオでも聞いてるみたいに上の空だった。
あたしはこんなに切ないのに、こんなに悲しいのに、それはこの人には、全然、関係のないことで、きっと、今のあたしは、何か様子がおかしいけど、それすらも気付いてないだなって、そう思った。
この人にとって、あたしは一体、どんな存在なんだろう・・・
大輔の話が途切れたとき、あたしは、ふと、大輔の朗らかな顔を見つめて、思わず、聞いてしまった。

「ねぇ・・・大ちゃん?」

「ん?なに?」

「大ちゃんにとって・・・・」

「うんうん」

「あたしって・・・・どんな存在?」

「お?なんだ急に!」

大輔はそう言って笑うと、さして考え込みもしないで、こう言葉を続ける。

「一緒いて気楽だよね。わがままも言わないで着いてきてくれるっていうか、なんか、いつもニコニコしながら、
つまらない話しとか愚痴とか聞いてくれるしさ!大切な存在だよ!優子ちゃんありがとって感じ」

きっと、大輔は、あたしを褒めてるんだと思う。

あたしといると気楽で、あたしはわがままを言わなくて、話しも聞いてくれるから・・・大切。
それって、あたしが、何でも言うこと聞くし、扱い易くて楽だって意味なのかな・・・?
いつものあたしなら、きっと、こんな受け取り方しなかったと思う。
でも今夜は、卑屈になりすぎて、そんな大輔の言葉が、なんだか、胸に刺さった。
じゃあ、あたしが、急にわがままになって、大輔の話しなんか聞かないで、べらべら自分勝手に色々しゃべりまくるようになったら、大輔の中で、あたしは、大切じゃなくなるのかな?
デートコースはいつも同じでつまらないから、たまにはもっと別な場所行きたいとか言い出したら、大輔は、どんな反応するのかな?

この人は一体・・・
あたしの何が好きで、結婚したいって思ってるのかな・・・?
あたしには、よくわからない・・・
もし・・
もしケイに、同じ質問をしたら・・・
ケイは、なんて答えるのかな・・・?

そんなことを、未だに思ってるあたしは、ほんとに救いようのないお馬鹿さんだと思った。


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