シンデレラガール
「着いたよ。聖奈」


ヒロちゃんの声は、ちゃんと聞こえている。

だけど、あたしはヒロちゃんの言葉に返事をしない。

そんなあたしに気付いたヒロちゃんがもう1度、声を掛ける。


「着いたわよ。葵」

「ホントだ。今日も1日よろしくお願いします」


普段のあたしとヒロちゃんの関係なら、こんな話し方はしない。

もちろん、それはヒロちゃんもわかっている。

わかっていて、あたしの役作りに協力しているのだ。

この車を降りて現場に入ったら、あたしはあたしじゃない。

あたしは、葵。

そう自分に呪文をかけ、車から下りた。

挨拶を交わし、スタッフに案内され、撮影の準備を始めた。

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