カットハウスやわた
「ごちそうさまでした」


「いえ、よかったらまた遊びに来てくださいね。次は、月曜日じゃない日に」


私は、何もいわずに会釈をして、いったん、八幡さんに背を向けた。そしてまた、クルッと向き直った。


「どうかしましたか?」


「定休日だけれど、やっぱり……髪を切ってほしいと思って……」


そう応えると、心底うれしそうな表情を浮かべた。


「喜んでお切りします!さあ、どうぞシャンプー台へ」


お客様は、誰もこない。私は、カットハウスやわたを貸し切りにした。


ちょうどよい湯加減のシャワーが髪を濡らしてゆく。シャワーの音を聞いていると、髪の汚れだけじゃなく、なにもかも洗い流されてゆく気がした。


キュッと、シャワーを止める音がして、シャンプーが始まる。八幡さんの、男らしいゴツゴツとした手が、優しく、頭を洗ってくれる。


……気持ちいい……


さっき、コーヒーカップを掴んでいた、固そうな手が、指先が、こんなにも優しく包んでくれるなんて……。目を閉じていると、あまりにも気持ちがよくて、思わず眠ってしまいそうになった。




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