カットハウスやわた
不動産屋を出ると、私はその足で、八幡さんの店に向かった。中の様子を伺うと、ちょうど散髪をしているところで、順番待ちのお客さんもいた。


ひとりで忙しそうだし、また引っ越してきてから挨拶にこよう…。そう思ったが、すぐには帰ることができないでいた。


ガラス越し、左手で器用にハサミを操るその姿に、釘付けになった。大きな手で丁寧に髪を扱う。


ああ、私もあんなふうに、髪を切ってもらったんだ…って。しばらく、ぼんやりと眺めていた。


散髪が終わったらしく、ケープに着いた髪を払い始めた。はっ…として、私はまた、なにごともなかったかのように、駅に向かって歩き始めた。



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