カットハウスやわた
「あっ……」


男は、何か思い出したらしく、席を外した。すぐに戻ってくると、私に名刺を差し出した。


「申し遅れました。店主の八幡正海です」


「……正樹」


名刺の名前が目に入った瞬間、ひと文字違いの、彼氏の名前を呟いてしまった。


でも、もう……彼氏でもなんでもないや……。あんな男、いらない……。


「あなたは……どちらからいらっしゃったのですか?」


八幡さんは、私の名前を訊ねようとはしなかった。


「月光町……です……」


「……またずいぶんと遠くから……」


「来たくて来たわけじゃないです……私、昨夜は嫌なことばかりで……飲み歩いたあげく、たどり着いたのがここです」


「……嫌なこと……ですか」


八幡さんの、鋭い視線が私を捉える。その目は、話したら楽になるよと、言ってくれているような気さえした。



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