嫉妬する男
嫉妬する男
「篠崎サン、今日こそランチ行ってくれるよね?」
一際目立つ、通る声で、今日もアイツがひなのに持ちかける。
デスクが、隣同士のひなのは、あきらかに迷惑そうな面持ちで、何度聞いたかわからない台詞を今日も口にした。
「結構です」
「あ~あ、やっぱりまたそれか~。じゃあ、いつだったら、俺とランチ行ってくれるのかな?」
「ずっと行きません。一生行きません」
あんな冷たい彼女の顔は、なかなか見れない。
それ程までに、突き放されていても、全く動じない彼は変わり者としか、言いようがなかった。
……いや、もしかしたら、それ程までに、ひなのに本気という事なのかもしれないが。
アイツ……上野隆太は、先月違う部署から異動して来た新人で、指導役には何故か島田が抜擢された。
故に、島田のデスクに訪れては、隣の俺にも構わず、ひなのの事をペラペラと島田に聞き込んでいる。
そんな時、島田はチラリと俺に視線を送りながら、迷惑そうに上野の弾丸のような質問を、機敏に回避しながら、指導をしている。
『おりれるものなら、おりたい』
と、指導二日目にして、島田は言っていた。
俺が島田の立場だったら、初日で白旗をあげていただろう。
いや、寧ろ直接、別れろとぶつけられていただろうな。
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