嫉妬する男
「先輩?どうしたんですか?」
隣を歩くひなのが、不思議そうに顔を見あげる。
「あ、ああ。島田が手をやいているみたいだ。上野に」
「ああ、上野さんは……確かに大変ですよね」
ひなのは、小さく頷くと、繋いだ手をキュッと握った。
「……大丈夫か?」
出社した時、退社した時、残業している時。
休憩時間でさえも、隙あらばひなのに絡んでいる上野。
流石のひなのにも、疲れの色が見てとれる。
「は、はい!全然大丈夫です!私、何を言われようと先輩を信じてますから」
やはり、言われていたのか。
あれは、上野がひなのに好意を示し始めた頃だった。
柄にもなく、アイツを呼び出して「ひなのに手を出すな」と言った俺に、上野はそんな事どうでもいいと言わんばかりに、いつになく真剣な表情で、俺に言い放った。
『高田先輩には言われたくないっすよ。どうせ、篠崎サンもヤるだけヤって捨てるんだろ?それが、先輩のスタイルですもんね?俺には全く理解出来ませんけど』
――何も言い返せなかった。
上野が言っている事は、寧ろ正論であって、俺が今までしてきた事は、事実間違っていたのだから。
どんなに悔やんでも、ふしだらにまみれた過去は、もう戻せない。
俺という人間に刻まれたままなのだ。