-かなめひめ-

 それから式神と燈は何も会話しないまま、あの神社____紅慈神社にて、別れることになった。
 これからは、一緒に帰ろう____そんな約束を、共にすることにして。


 道をゆっくりと歩いていく式神の背中を眺めながら、燈は先ほどの式神の言葉を頭の中で繰り返していた。


<...奴には気をつけろ。それだけだ>


 気をつけろ。
 何にだろうか。<かなめひめ>に、だろうか。

 けれども、あれはただの噂話、怪談話ではないのか?言うことを聞かない子供を叱るための、怖がらせるための、大人が作った作り話ではないのか?

 あんな恐ろしい奴が、本当に存在している、と言うのだろうか。
 考えれば、とても恐ろしいことだ____まるで他人事のように、一人そう思う燈。


 何となく想像してみる。
 <かなめひめ>によって、印を押された自分。
不幸を呼び寄せると悪く言われ、見ず知らずの他人から、よく慕っている友人、家族までもが、自分を殺そうと躍起になる。
 そして、無惨に殺される自分。


 寒気がして、無理矢理頭を強く振って、嫌な想像を頭から飛ばした。全く、気が滅入ってしまった。


「...神社にでも、寄ってみようかな」


 実は、燈は大の神社好きでもある。
 自然に囲まれ、あの古ぼけた雰囲気の中でじっとしていると、何か心が落ち着くような気がするのだ。

 と言っても、近くにあるのは不気味な噂立つ、「紅慈神社」しかなかったのだが。

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