-かなめひめ-

 紅慈神社≪コウジジンジャ≫。

 白錦町では唯一の大きな神社で、ここ以外に大きな神社は知らないため、大きな神社はあそこしかないのではないか、と自分の中ではそう思っている。

 白錦町の神社なんて調べたことがないし、もしかすると、あそこ以外にも神社はあると思う。

 木々に囲まれた、神社は主に赤色が彩色に使われているため、「紅慈」と名付けられた...という一説があるらしいが、その真偽は誰にもわからない。

 昔から呪いやら何やらの怖い噂の舞台になりがちで、そのせいで、白錦町の住民たちからはあまり良い印象は持たれてない。

 子供の頃はよくあそこで遊んだものだが、成長するにつれて少し不気味になってきて、遊ぶのをやめた。

 私の家も、その神社の近くにある。


「____<かなめひめ>って、知っているか」


 式神に突然そう問われて、燈は思わず「え」と無意識に声が漏れた。
 燈は式神を見上げる。自分より遥かに背が高いため、自然に見上げてしまう。

 式神は、無表情を貫いたまま、また繰り返した。


「<かなめひめ>。...不老不死になった巫女」


 脳裏に祖母から話してもらった昔話を聞いたのを思い出して、燈は式神から前方に目を向け、口を開ける。


「...知ってます。
確か、100の人の命を殺して神に捧げて、不老不死になった____でしたっけ。祖母にその話を聞かされました」

「そうだ」

「...でも、何で今それを?」


 今度は燈が問うと、式神は何やら苦しげな、辛そうな表情で、言うのを躊躇っているようだった。
 だが、式神は口を開いた。


「...いや。
...奴には気をつけろ。それだけだ」

「...え?」


 気をつけろ、って。
< 16 / 30 >

この作品をシェア

pagetop