-かなめひめ-
「...これは...何なの...?」


 自らの手首を侵食する恐ろしい何かに戸惑いながら、燈は誰にも向けていない発言を漏らした。

 燈の隣にいた式噛が、手首のそれを見つめながら、答える。

「<かなめひめ>の、印だ」

「...え?」

 <かなめひめ>って、あのたくさんの罪なき人の命を捧げて、不老不死になった巫女のことか。
 <かなめひめ>は、人に周りを不幸にさせる印をつけて、呪いを恐がった人に殺させる手法を使って、100の命を集め、不老不死になった。


____もしや、その「印」って。


 式噛は燈の手首を下ろしてやると、燈の身体を立ち上がらせ電灯の光から外れるように移動させた。

 二人の身体は暗闇に包まれる。

「あんたの言ったその女に、追われているか?」

「...追われていないと思う。掴まれた後消えて、私はその後に逃げたから...」

「...印をつけたら後は愉しむだけか。あの野郎」

 階段を見上げ、怒りの混じった低い声を漏らす式噛を、燈は心配そうに見つめる。
 その視線を感じ取ったのか、式噛は目線を燈に戻して、燈の目をじっと見つめる。

 鋭い視線はまるで矢先のようで、射抜かれそうだ。
 燈の目は式噛の目に釘付けになってしまう。


「その印は、誰かに絶対に見せるな」

「...どういうこと?」

 式噛は燈の手首の印を見ながら、続けるを


「そいつは昔話通り、周りの人を不幸にさせる<かなめひめ>の印だ。
それに、そいつはそれ以外にヤバい代物でもある」


 まるで冗談のようにも取れる話だ。
 だが、彼の表情は真剣以外も何もなく、燈はあの話は本当なんだと思わせるには十分だった。


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