-かなめひめ-
 もうすっかり夜だ。
 黒に塗りつぶされた空には、点々と光る星と、妖しい銀の輝きを放つ満月が昇っている。
 それでも吹き続ける小さな温い風が、木々の葉を次々に鳴らしていく。


 何とか、平常心を取り戻した燈。
 落ち着いて、式神の話に耳を傾ける。

 一方の式神は、言おうか戸惑っているようだったが、覚悟を決めたのか、その口を開いた。


「___その印を見た人間は、あんたを殺そうと豹変する」

「...え!?」


 殺す。
 また別の世界の言葉に聞こえてしまった。

 それくらい、あまりにも今の日常からかけ離れた言葉だったのだ。

 悪口で冗談のつもりで使ってしまったことは多々あったものだが、いざこんな状況で使われると、もう冗談には聞こえなくなってくる。


「だから、絶対に見せるな。それが親友でも、家族であってもだ。
一度見せれば、あんたを殺そうと躍起になるだろう」

「そんな...信じられない」

「当たり前だ。こんなことを言われてすぐに信じられたら肝の座り過ぎた奴だ。
だが...これは本当の話だ」


 燈は式神から目を離し、自らの右手首の印を、まるで化け物を見るような目で見つめる。

 心なしか、黒い筋がさらに広がっているように見えた。恐ろしくなって、思わず、印から目を背ける。


「印は何かで隠せ。人につかないように、なるべく目立たせないほうがいい。
...あんたの家まで着いて行ったほうがいいか?」

「...お願いします」


 自分の家まで着いて行ってくれるのは、色々ありすぎて精神が参ったし、今だに恐怖に包まれている燈にとっては、嬉しいことだった。


 燈の家に到着し、そこで式神と別れた。
 家に入った燈はすぐに二階の自室に飛び込み、バッグを投げ捨て、ベッドに倒れこんだ。

 一階から母の気遣う声が聞こえたが、燈はそれに応じず、右手首を左手で覆うように庇い、制服のまま眠りについてしまった。


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