Dear・・・
と、テーブルの上に置かれた無防備な携帯が目に入った。


いつも肌身離さず持ち歩かれている携帯。


興味本位というのか、香子は携帯の中身が気になり目を離せずにいた。


一度、階段に目をやる。
まだ治の降りてくる気配はない。


そっと携帯を手に持ち開く。


幼い頃、母の化粧品をこっそりと使おうとした時のドキドキとよく似ている。


しかし、その時の危機感とは違うものも感じていた。


もう、この生活を続けることが出来なくなりそうな大きな地雷がそこにはあるような気がする。


しかし、見ないでいることも出来ない興味が香子の中で湧き上がっていた。


とりあえず、受信ボックスを開く。


差出人の名前が並ぶ。


その中で一際目立つ“慶介”の文字。


苗字もなくただ“慶介”とだけ記されている。


仕事のメールであれば下の名前だけ登録するはずがない。


誰なのだろうという疑問を抱きつつ、メールを開こうとする。


「何やってんだ」


背後から治の声がした。


香子は俊敏に反応し、そっと携帯を閉じ、机に置くと何もなかったかのように振り返る。


「え?何?机拭いてただけやけど」


そういうと治の顔を見る事無く、キッチンへと戻っていった。


治は特に怪しむ事はせず、机の上の携帯を手に取ると、ソファーへと横になった。


香子はキッチンからソファーの治を見る。


疑問に満ちた慶介という名前に答えが出るはずもなく、食事の準備に集中した。
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