Dear・・・

Bar[Syota.side]

治とのメールを再開して数週間。


六月に入り、じめじめとした梅雨の季節に突入した。


五人は七月に行われるデビュー記念ライブに向け、近頃夜遅くまでスタジオにこもり練習をしていた。


その中での久々の休み。


五人は夕方から数名の友人たちとともに智貴の店に集まり、テーブルを囲んでいた。


今日は僅かに他の客の姿もある。


しかし、智貴たちが他の客を気にするはずもなく、飲むペースはいつもと変わらない。


普段通り周りは汚れている。


「あんたたち、飲むのは良いけどもうちょっと綺麗に飲みなさいよ」


この店のマスターである智貴の母が言う。


智貴は一切聞こうとしない。


「反抗期かなあ、ともちゃん」


茶化した口調で礼人が言う。


舌足らずな口調から完全に酔っ払っている。


智貴はそんな礼人を一切相手にしようとしない。


急に慶介が席を立った。


「どうした?」


智貴が尋ねた。


「トイレ、トイレ」


そういうと店奥のトイレに向かった。


「あ、慶介くん!店のトイレ今、壊れてるから上の使ってくれる?」


慶介がトイレのドアに手をかけたとき、智貴の母が叫んだ。


それに慶介は軽く会釈をすると、階段を上り智貴の家へと向かう。


「は?ババア。トイレ壊れてるならさっさと直せよ」


智貴が母に睨みを利かせる。


「いちいちあんたはうるさい子ねえ。ちゃんと業者に頼んだよ」


姑の小言を聞かされている様な顔で、智貴の言葉をあしらう。


「店開いてんだからさっさと直せよ。そんなだらだらしてるから、親父に捨てられるんだよ」


視点の合っていない目で母を見る。


酔いが回ってきているのだろう。


「まあ、良いじゃん智貴さん。飲んで飲んで」


左隣に座っていた博昭が智貴をなだめた。


そうよ、と右隣に座る女が言う。


智貴は嫌そうにしながらも、女に肩を回しグラスに注がれたビールを律儀に飲み勧めた。
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