Dear・・・
「実はママが大好きで仕方ないくせに」


茶化して友人の男が口を挟む。


「うるせえ!」


と、言いながらも特に激しくは否定をしない。


「意外とお母さん想いなんだあ」


周りの女がキャッキャと智貴に絡む。


「あれ?」


急に、翔太が声を上げた。


何事かと全員の視線が翔太に集まる。


「携帯がない!」


その言葉に視線は一気に散った。


しかし、翔太の焦りは止まらず、席を立って体中を触り確かめる。


「じゃあ、鳴らしてやるよ」


と、見兼ねた礼人が携帯を取り出そうとする。


その時、翔太の目に机に置かれた慶介の携帯が目に入った。


「あ、いいや、慶介の借りるから」


そう言い、席に座ると慶介の携帯に手を伸ばす。


アドレス帳からかけるより、発着履歴からかけた方が早いだろうと、履歴を見た。


すると、そこにはアドレス帳に登録されていないうえに非通知で電話をした形跡がいくつも残っていた。


しかも、日付が新しい。


その怪しげな番号を見つめる。


「翔太?番号分かった?」


一向に自分の携帯に掛けようとしない翔太に、礼人が尋ねた。


「やっぱ俺、鳴らそうか?」


「あ、大丈夫。今、見つかったから」


そう言い、非通知発信されていた上にあった自分の番号へとリダイヤルした。


辺りに電子音が鳴り響く。


「おい」


呆れた声で博昭が言う。


「なんでてめえの鞄から、音が聞こえてくるんだよ」


翔太に鞄を投げ渡した。


全員になんとも言えない空気が流れる。


「あ、そうだ。今日は鞄に入れたんだったな。いつもポケットにいれてるから忘れちゃったあ。あははー」


気まずそうに笑うと、周りからも乾いた笑いが聞こえてくる。


翔太狙いの女が何か言っているが、翔太の耳には届いていない。


鞄を膝に置いた。


そして、自分の携帯を探す前に、再度慶介の携帯を見る。
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