獣耳彼氏



冷やりとした空気が足に纏わりつく。


嫌な風が足元を通り抜ける。


何もない空間のはずなのに、何かがそこに居るような。


何かが私を見ている。目が合っているような感覚が襲ってきた。


それは、手を伸ばせば届く距離にいる。


左手が勝手に動き出し、手をそちらへと伸ばす。


意思とは関係なく伸ばされる腕。


あと少し、あと少しで触れられる。触れてしまう。


トサリと何かが落ちた、その時だった。



「マコト!」



突如、意識が解放される。


追って感じる悪寒と寒気。


膝から順に力が抜けていく。


カクカクと立って居られなくやり、踏ん張ることも出来ず、倒れる!


そう思った次の瞬間には、強い力で腕を引っ張られ体が後ろへと傾いた。


ゆっくりと倒れる私の体。


伸ばした左手がもうすぐで何かに掴まれる。そう感じた。


それと同時にギュッと体全体が温もりに包まれたところで、ようやく意識が覚醒した。



「え?何?」



足元に落ちているカバンとショッピングバック。


大きな手に包まれている腕。


たくましい腕に支えられている自分の体。


自分の置かれている状況がイマイチ理解出来ない。



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