姉さんの彼氏は吸血鬼 孝の苦労事件簿①
――ぴたり。

瞬間的に。

彼の体から、威圧的な『力』が滲み出した。

彼女は本能的に言葉を切り、気が付いたら身構えていた。

「……どうやらお前ばっかりは、
僕が手を下さなければいけないようだな」

エリアルが抑揚の無い声で言うと、
彼女は開き直ってふんっと鼻を鳴らした。


「……別に今日は、あなたにどうこうしようって気は無いわ。
こっちにも準備があるしね」

「そんなの僕が認めると思ってるのか?」

「嫌でも認めて貰うわ」

途端に女は、それまで漂わせていた濃い気配を消し、
その場を去った。

あまりに早い態度と行動の変化に間に合わず、
エリアルは「くそっ」と毒づいた。


後には、お守り袋の強烈な香と同じ女の匂いが残っただけだった。
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