【完】ズルい瞳[短編]



ワイパーも追い付かないくらい、フロントガラスを叩きつける激しい雨。




電車が止まってしまったことで、車での移動を余儀なくされた道は




大方の予想通り、大渋滞。




「遅くなるって、家に電話入れておいた方がいいんじゃねぇか?」




前の車の赤いテールランプが、蒼ちゃんの端正な顔立ちを照らし出し




“大人の男性”を意識せずにはいられない。




「おい、あおい聞いてんのか?」




「え?」




「家!祥子さんは夜勤かもしれねぇが、親父さんなら帰宅してる頃だろ?1回電話してみろって」




「あ………」




カバンから慌てて携帯を取り出したのだけど




「あ!パパ、今夜は出張で福岡だったんだ」




今朝、大きめトランクを持って玄関を出たパパの姿を不意に思い出した。




「じゃあ、今日はお前ひとり留守番か。にしても大丈夫なのか?」




なかなか動かない車。




蒼ちゃんはハンドルに腕と顔を預けたような体勢で、私を横目に見つめてくる。




「だ、大丈夫です。こんなこと、もう慣れっこですから」




「慣れっこ、ねぇ。そんなもんにあまり慣れて欲しくもねぇけどな」




「え?」




雨の音がうるさくて、蒼ちゃんの声がうまく聞き取れない。




「あ……いや、何でもねぇ。それよりお前、飯は?腹減ってないか?」




そう言うと、蒼ちゃんは自分の腕時計をチラッと見た。




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