【完】ズルい瞳[短編]



コンコンッ……。




遠慮がちに歴史資料室の扉をノックする。




「村瀬です」




「あぁ、入れ」




蒼ちゃんの声に恐縮しつつ扉を開け……私はその足をゆっくりと踏み入れた。




「戸、きちんと閉めとけよ?」




中に入ると、そこには蒼ちゃん1人しかいなくて




ほんの少しホッとする。




「あ、あの……」




「村瀬。言いたいことはたくさんあるかもしれないが、ここでは教師と生徒だと言うこと……わきまえてくれ」




私が何を言いだすのかも蒼ちゃんには、すっかりお見通しのようで




有無も言わせないまま、その鋭い言葉ひとつで




見事なまでの一線をビシッと引いた蒼ちゃん。




「蒼ちゃ……」




「城崎。俺は城崎で、お前の担任だ」




「…………」




まるで呪文のようなその言葉は




私を強く縛り付けて、解く力さえも奪う。




「悪いが、そこの棚から鎌倉時代の資料を抜き出しておいてくれ」




「………は、はい」




5年前まで、私を可愛がってくれた蒼ちゃんの面影は




欠片もない。




< 6 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop