【完】ズルい瞳[短編]
言われた通り、私は奥の本棚から鎌倉幕府の資料を抜き出す作業に取り掛かる。
だけど、棚と本との間に出来た僅かな隙間から
蒼ちゃんの様子をそっと伺い見てしまう。
「わ………」
蒼ちゃん、煙草吸うんだ……。
5年前には見なかった光景。
そのあまりにも変わりすぎてしまった蒼ちゃんの姿に
少しだけ寂しさが募る。
でも
少し痩せた顎のラインやシャープな鼻筋
ちょっとだけ広くなった肩幅や細くしなやかな指先は
あの頃の蒼ちゃんそのまま。
「…………」
私は自分の胸の高鳴る鼓動を抑えるのに
精一杯だった。
なのに
「こら。あんま、見てんな」
「え………」
「そんな目で男を見るんじゃない」
私の密かな企みはアッサリと蒼ちゃんにバレてしまい
断念せざるを得ない状況に。
「資料はあったのか?」
咥えていた煙草を近くの灰皿に押し付け、蒼ちゃんは確認の為か、ゆっくりとこちらに向かってきた。
「あ……はい。あと1冊だけ」
一番高い場所にある本に手を伸ばし、指先が少し掛かったところで
「あ」
大きくバランスを崩す。