忠犬カノジョとご主人様


昇進するためならなんだってやるさ。

この国では上の者に媚びて意見を合わせることが基本なんだろ。

自分の意見を持ってるやつすら少ないのだから、妥協という言葉すら生まれないんじゃないのか?



郷に入っては郷に従えとはよく言ったものだ。

この国にはこの国のルールがある。

ある程度の地位を確立するまでは、従い続けてやる。



「さっきから野心が俺のからだにまで刺さってるよ」

「柳部長、おはようございます」

「おはよう、あとコンタクトはやく外してきた方が良いんじゃないかな」

「……柳部長やっぱり俺の心読んでますよね? 俺結構そういうの信じるたちなんではやめに言って頂けると助かります」

「はは」

「そう言えば柳部長、この間新人の研修会を見に行ったとお聞きしたのですが、どうでしたか」

「資格の模擬テストの点数は皆良かったよ。八神専務の従姉妹の息子さんはとくに」

「……」


俺はどこかで聞いたことのあるその名前を一瞬気にかけたが、その日の業務に集中した。


< 15 / 71 >

この作品をシェア

pagetop