忠犬カノジョとご主人様


……そう、見ていただけのつもりが。

足が勝手に彼を追いかけてしまっていた。

いや、違う違う違う違うストーカーじゃない違う違う。

正気に戻った瞬間、私は一人自販機の裏に隠れて頭を抱えた。

なんとか自分の記憶をたどってみた。

二次会で同期の皆とばいばいする、ソラ君ともばいばいする、ソラ君が消えるまで後ろ姿を見つめる、見つめるつもりが足が勝手に動く、あとをつける、現在に至る……。


「まごうことなきストーカーや……」


ナチュラルにストーキングしていた自分に思わず身震いした。

え!? 怖!? 今までの乙ゲーキャラへの粘着質な愛し方がついに現実世界にまで出てしまったのか!? 終わってるな私!?

飲み屋の並びから少し外れた薄暗い通りで、私は自分のした行為に震えていた。


「あ、あかん……」


大阪弁のリク先輩と毎日(画面越しで)会話していたせいで身に着いた似非関西弁が虚しく路地に響いた。

帰ろう……ばれたらもう一緒に働けなくなる……本当に終わる私の人生……。

私は身も心もなんだか一気にボロボロになった思いだった。

私はこそこそとソラ君の後ろ姿を自販機の陰から覗いた。

ソラ君は近くのコンビニに入っていった。

ああ何買ったんだろう意外とああいうキャラの人が缶チュー1本買って1人でちびちび飲みながら寂しそうに帰ってたら萌え……じゃない今すぐばれないうちに帰ろう……!!

と一人で勝手に葛藤しているうちにソラ君がコンビニから出てきた。

その手には、缶チュー1本……そしてそれをちびちび飲みながら歩くソラ君……。


「はあ!?」


私のツボをつきすぎてなんだか色々通り越してキレてしまった。

思わず声を上げてしまいハッとしてすぐに口をおさえたけど、既に時遅しだった。

ソラ君は私をきょとんとした表情で見つめて、


「双葉さんもこっち方面にお住みなんですか?」


と、微笑んだ。

王子かよ……。私の住まいは限りなく埼玉寄りのぎり東京ですけど私のお口が勝手にハイと答えていた。


「送りますよ」


王子が私に近づいてきて、そう言った。倒れるかと思った。

< 19 / 71 >

この作品をシェア

pagetop